関西人――特に大阪人の前でソースを侮辱しない方が良い。
ソースは親から受け継いだ血よりも色濃く体の中を流れており、ソースの侮蔑は彼らに対する宣戦布告に他ならない。
なぜ常日ごろ大阪出身アピールを怠らないナニワ(筆者)がここで「私たち」ではなく「彼ら」と言ったかというと、私の血管にはソースが流れていないからだ。
京都生まれ・大阪育ちという出自を卑下している訳では決してない。ただ単に、14歳くらいの時にソースに飽きて、たこ焼きや焼きそばにソースをかけなくなったためだ。
告白しよう。ソースを避けているという理由だけで、中学・高校で差別的発言を浴びたことは1度や2度では済まなかった。無理やりソースを口にねじ込まれたことすらある。大阪には、それほどまでにソースを重んじる文化が根付いている。
だが考えてみて欲しい。ソースばっかり食ってたら飽きるべ? 私とて無類のチーズ好きだが、毎日3食チーズが出てきたらさすがに飽きる。好きな物は好きな時に食べてナンボやろ。
と、辛い過去もあったわけだが、茅ケ崎に引っ越してきてからはそんな過去とは決別した。私は私の自由意志でソースを避け、その選択を何者にも邪魔させない。
またしても大層な前書きになってしまって恐縮だ。今回は単に、私が取引先との打ち合わせでよく訪れる渋谷の美味しい “塩焼きそば” を紹介したいだけだったのに、ソースの話となるとつい熱が入ってしまった。これもソースの呪いなのだろうか。
いけない、またソースの事を考えてしまった。気を取り直して、渋谷で塩焼きそばが食べられるお店を3店舗紹介していこう。
鉄板屋シュウ
渋谷の焼きそばを語るにあたって絶対に外してはいけないのが「鉄板屋シュウ」だ。以前は「真打みかさ」と名乗っていただけあって、渋谷を代表する真打ち焼きそばで、何度かテレビでも紹介されている。
ナニワさん、そんなミーハーなところ行くんですか? と言う意地悪な読者もいるだろうが、だって真打ちなんやもん。「王道をおさえずして邪道を走るなかれ」、これが物事の基本って何かの映画で言ってた。気がする。
渋谷駅の南部、明治通りを恵比寿方面に歩いて10分と、アクセスが良いとは言い難い。だが南口方面の会社に勤めている方や、そこいらで打ち合わせの予定がある方には是非とも足を運んでもらいたいお店だ。
看板に「生めんやきそば」と掲げられているとおり、鉄板屋シュウの焼きそばの最大の特徴はそのもっちりとした自家製麺だ。
関西を飛び出してからというものの、カップ塩焼きそばしか食べていなかった私にとって衝撃的なコシのある太麺。注文してから麺を茹でるため、太麺の中心部は茹でたてのほんのりとした固さが残る。まさか焼きそばにもアルデンテがあるとは、誰が想像しただろうか。
この麺の硬さは正直なところ好みが別れる点ではあるが、ラーメン屋で常に麺を固めで注文するような固麺好きにはたまらない新触感の焼きそばだ。個人的には、太くて硬い麺を嗜んでいると、高級食材の良さが分かる食通になった気分に浸れるのでオススメだ。え、ナニワだけ?
また、関西ではオプション的な扱いの目玉焼きがタダで乗っかってくるのも嬉しい。そのままの塩焼きそばを半分ほど堪能した後に目玉焼きを崩し、黄身を絡めて食べるというひつまぶし的な味の変化を楽しめる。
しぶやき
鉄板屋シュウから50歩ほど(ミスタイプではない)の距離にある「しぶやき」も、焼きそばを中心としたメニューを展開するお店だ。ここらへん焼きそば激戦区なんけ?
こちらはウインズ渋谷(場外馬券販売所)の目の前という立地のためか、鉄板屋シュウと比べるとやや低めの値段感だ。分かるで、負ける時はホント一瞬やからな……淀の競馬場で何度万札が紙くずと化したことか……。
負けた人にも優しい値段感ではあるが、焼きそばは関西人も唸る王道な味だ。大阪から離れて数ヶ月、打ち合わせの帰りに彷徨った渋谷でしぶやきに行き着き、塩焼きそばを口にした時の郷愁は今でも忘れない。
確かに鉄板屋シュウの塩焼きそばは美味い。だが、大阪をより鮮明に思い出させてくれるのはしぶやきの塩焼きそばだ。
麺は比較的太い方ではあるが、ラーメンで言うところの「ふつう」の固さで食べやすい。塩胡椒もほんのりと香る程度で、しつこさは微塵も無い。そして、トッピングとして乗せられている豚肉と葱との相性も抜群だ。しかも目玉焼きまで乗っている。関東では目玉焼きデフォなんけ?
さらに、ランチだとタダで無限スープ(生姜スープ)がついてくるのも嬉しい。これ食ってれば風邪ひかなさそう。
さらにさらに、一度しぶやきで食事をすると「100円割引券」がもらえるのだ。これはかつて吉野家などで使われていた手法で、一度店に足を踏み入れると100円割引券が半永久的に供給され続ける。つまりしぶやきの常連になれば、一生得をして生きていけるということだ(?)。
こういうお得感に弱いところを見るに、やはりナニワには大阪の血が流れているのだろう。
わっはっは風月 渋谷店
結局チェーン店かよ! と思われるかもしれないが、案外関東の人は「風月」の事を知らないらしい。大阪では「鶴橋風月」の看板を掲げてそこかしこに店舗を構えるお好み焼きチェーン店で、鉄板焼きの一品料理などもあって1店舗で大阪っぽさを堪能でいるメニューを揃えている。
「わっはっは風月 渋谷店」に訪れたのは、取引先の会社の人が「君、大阪の子なんでしょ? 今度お好み焼き屋行こうよ」と言い出したからである。
とは言え関東で大阪らしいお好み焼きを出してくれるお店は多くない。そもそも自分で焼かせるところ多いし、みんなすぐにピザみたいに切るし。せめて焼いたお好み焼きを持ってきてくれる大阪風な所に行きたい。
ということで選んだお店が風月だった。風月なら勝手も知っているし、有名チェーンなだけあって味も大阪とは大きく変わらない。そして大阪っぽくデフォルトでは目玉焼きが付かない。あれ、損してない? いや気にしたら負けだ。
しかも、だ。塩焼きそばが結構美味しい。そりゃあ、鉄板屋シュウやしぶやきに比べたら幾分か凡庸な味かもしれない。だがその素朴さは、オカンがソース嫌いの私のために作ってくれたザ・ベーシックな塩焼きそばを思わせる。オカン、我儘ばっかり言うてごめんな……。いけない、少し目頭が熱くなってしまった。
最後に少し食通っぽいコメントを付け加えるとするならば、塩焼きそばのお供に「長芋のステーキ」を頼むことをお勧めする。こちらの一品料理が美味なることはもちろんだが、狙いは長芋のステーキについてくる “ワサビ” だ。ワサビを少々塩焼きそばに乗せて食べると、店舗側も想定が及んでいない組み合わせを楽しむことができる。
この組み合わせは先方との打ち合わせ中に偶然見つけたものだが、取引先に見栄を張るために「ええ、通の大阪人はこうやって食べるんですよ」とつい言ってしまったくらいには良いコンビネーションだ。
取引先の人も恐る恐る試してハマっていたし、ホラも吹いてみるものやなと。「大阪人は平気で嘘をつく」と揶揄されることもあるが、まさか自分で揶揄を体現してしまうとは。でも、みんなハッピーやからええやん?
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ひぶやき派!
食べるんご^^